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2004年4月18日 (日)

『ゼラニウム』 堀江敏幸

0211695300001.jpg 女性との偶然の出会いをテーマにした、連作短編集。この作者の作品にしては珍しく、官能の匂いもほのかに感じられる。私の一番のお気に入りは「アメリカの晩餐」、そして次は「さくらんぼのある家」。

堀江敏幸の作品の主人公は、なりゆき任せで主体性がなく、影の薄い人物に見えることが多い。描かれる舞台には華やかさはないし、描かれる人々も、人生の終末を迎える人だったり、地味な人生を送ってきた人だったり、流行や世俗的成功とは無縁の人だったりする。いかにも後ろ向き、懐古趣味、昔は良かった、そんな価値観が貫かれているかのように見える。

しかし、実はそうではないのではないかと私は思っている。主体性のないように見える主人公は、「行く」か「戻る」かの選択肢が与えられると、必ず「行く」ほうを選択している。失うものがないから、守りに入らずに済むというわけだけれど、そこには作者の「一歩踏み出すことへの共感」があるのではないか。

あれこれと先回りして考えたり、「やめておこう」と思うことがない。だからこそストーリーが展開していくわけだけれど、そこには気負いもないかわりに、守りの姿勢もないし、先入観も一切ない。あるものをそのまま受け止める、柔軟な感性があるように思う。もしくは、何とかなるさという開き直りのようなもの。この「一歩踏み出すこと」をよしとする価値観がある限り、これからもこの作者の作品の中で味のある体験を読者は共有できるのではないかと期待が膨らむのである。

ゼラニウム』  堀江敏幸 朝日新聞社 2002年発行

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