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2004年10月11日 (月)

『場所』 瀬戸内寂聴

場所(新潮文庫)
瀬戸内寂聴著

出版社 新潮社
発売日 2004.08
価格  ¥ 540(¥ 514)
ISBN  4101144362

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久しぶりの読了本。これはすごい本です。人生が詰まっています。年をとって、感傷的に自分の生涯を振り返っているというような生っちょろい本ではありません。(以前、私がさんざんけなした某氏の何たらとは違います)
そもそもこれは、荒川洋治の『忘れられる過去』の中で紹介されており、食指が動いて読んだもので、本の水先案内人の荒川さんに、またまた感謝ということに。
下記の感想と同様のものをbk1にも投稿しました。

著者自身の手による人生の総ざらえと言える一冊。過去に暮らした場所を訪ね歩き、当時の暮らしぶりや心もようを懐古する14篇。著者の最大の魅力である「俗性」と「客体化」、この二つが際立っている。

「長い歳月、七十七歳になる今日まで、私は父の郷里を深い山の中の村だとばかり勝手に思いこんでいた。」という書き出しで始まる「南山」から、「ふいに近づいてきた風が私の墨染の衣の袖をなぶり、掛けた赤い輪袈裟を吹き飛ばしそうにした。あわててそれを両手で押さえこみながら、彼等のいる場所へ、いつになったら私はたどりつけるのだろうかと、風に訊いていた。」で終わる、書き下ろし最終篇「本郷壱岐坂」まで、波乱と苦悩と破格のエネルギーに満ちた生涯がそこにある。

『夏の終り』で多くの読者になじみの三角関係がまた、高齢の著者の筆とは思えぬリアルさで再び描かれる。三角関係の一角を成す妻子ある男との初めての塔ノ沢行き。自分が道を踏み誤らせてしまったという良心の呵責から、再会後に始まった年下の男との生活。土蔵の中でひたすら小説を書き綴る著者の壮絶な姿は、「中野本町通」に描かれる。俗世とは一線を画す位置に身を置いてなお、高みから見下ろすことのない、俗世の迷いとともに今もともに歩んでいるかのごとき著者のその立ち位置が、迷える人々を著者のもとに集める力なのだろう。

「住いに馴れ、便利さに馴れ、生活に微温的な諧調がかなでられてくると、私は居ても立ってもいられない不安定な心の揺れを生じ、ひりひりした焦燥感に心を灼かれて性懲りもない破壊願望に衝き動かされてしまうのである。無謀としか言いようもない引越を繰り返す生活の中で、私の中にとみに晩年意識が生じてきたのは、幾歳頃からだったろうか」。

破壊衝動を持ちながらも、文章を書いて客体化する力を持っていたからこそ、俗性をたたえたままで出家の道に入り、心身ともに老いることなく、また自らを破壊することなく、生気に満ちあふれていられるのだろう。この人は、書くことによって生きてきた人なのだという思いを新たにした。

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コメント

お久しぶりです。
そそられました!
本も良いけど書評もいいですね、bk1の書評には「はい」ボタンを迷わずクリックしてきました。

これもぜひ読んでみたい一冊に加えます。
瀬戸内さんの小説はじつは一冊も読んでいません。お奨めがあれば教えてください。

投稿: ピピ | 2004年10月12日 (火) 19:00

ピピ姫さん、ご無沙汰しています。
お立ち寄りくださりありがとうございます~。

瀬戸内寂聴さんで私のお勧めは
『かの子撩乱』と『女人源氏物語』です。
小説は、若い頃しか書いていないように思います。
私は岡本かの子好き、評伝好きなので
『かの子撩乱』はお気に入り。

女人源氏は長いけど、女性の視点から書き直した
源氏物語ということで、物語の理解には最適です!

投稿: とみきち | 2004年10月12日 (火) 23:15

とみきちさん、
久しぶりです。寂聴の『場所』のレビューを読みました。
最近、保坂和志の掲示板によく御邪魔しているのですが、
kinuさんっていうアメリカ在住の方が、
『場所』についてレスしたのに反応して、
この文庫を紹介したのですが、内容を教えて欲しいとのことで、
このとみきちさんのエントリーをリンク紹介しました。
http://bbs.nazca.co.jp/cgi-bin/bbs-c/bbs.cgi?id=gabun&start=1
ご了解ください。

投稿: 葉っぱ64 | 2004年10月22日 (金) 18:23

葉っぱ64さん
ほんとうにお久しぶりです。
このごろ、皆さんのブログを拝見する余裕はおろか、本を読む間もなく、情けない限りですが、そんな中で読んだこの本はとても良かったのです。ご紹介くださって、こちらにいらした方が、いろんな感想や意見をまた書き込んでくださったらありがたいなと思います。

また葉っぱ64さんのブログにも遊びにいきたい、と思っておりますーー。

投稿: とみきち | 2004年10月23日 (土) 00:42

こんにちは!トラックバック貼らせていただきました。
チャンネルマスターのブログにもぜひ遊びにきてください。
番組の感想などどんどん残していってくださいね!!
お待ちしています。

投稿: | 2005年11月24日 (木) 18:41

>木さん

こんにちは。
ドラマでは、瀬戸内寂聴に宮沢りえが扮するのですね。

トラックバックしてくださったとのことですが、反映されていないみたいです。今日はココログが長時間のメンテを実施していたせいかもしれません。よろしければ、再度お願いいたします。

投稿: とみきち | 2005年11月24日 (木) 23:51

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