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2005年6月 4日 (土)

『椿山課長の七日間』 浅田次郎

椿山課長の七日間
浅田 次郎 / 浅田 次郎著 / 浅田 次郎〔著〕
朝日新聞社 (2002.10)
通常2~3日以内に発送します。

浅田次郎の小説は、エンターテインメント的要素がたっぷりあるので、読書初心者にも、手練れの読者にも、広くお勧めできるものが多い。本書は、朝日新聞の連載小説であったこともあってか、特にその傾向が強い。家族について考える、人生を考える、やさしさとは何か、高齢化社会を考える、社会で働く意味を考える、愛とは何かを考える。さまざまな切り口が、それぞれの読者に向けて、やさしく提示されている。誰もが、自分の状況に引きつけて読むことができる、オールマイティな小説である。

高卒というハンディがありながら、デパートマンの花形、本店の婦人服課長になった椿山は、しかし、過労のためか、急死する。現世と来世の間、中陰の世界で、自分が死んだことを知る。椿山には、いま死ぬわけにはいかないさまざまな事情があった。

さて、お察しの通り、みなさんがいらっしゃるこの場所は現世と来世の中間、俗に冥土と呼ばれる中陰の世界です。みなさんはよほどのことがないかぎり、いずれは極楽往生をするのですが、それには生前の行いを十分に審査し、講習を受け、反省を促して、よりニュートラルな魂を獲得させる必要があります。そうした実務と事務手続きの一切をまかなう場所がここなのですね。昔はここを『中陰役所』と称しておりましたが、このごろはよりグローバルな視野に立って、『スピリッツ・アライバル・センター』通称『SAC(サック)』と呼んでおります。

と、SACの職員から説明を受ける。その後、極楽往生への道をほとんどの人が選ぶ中(何がしかの罪があると認定されても、その罪を認めて反省ボタンを押せば、その罪はチャラになり、極楽への道が約束される。しかし、それでは小説は終わってしまう)、椿山をはじめ、少年一人、間違って殺されたテキヤ一人が、特別逆送を要求し、初七日の期間限定、自分の正体を明かさない、敵討ちをしない、という約束で、現世に戻ることが許される。こうして小説が始まるのだ。

普通、現世の心残りといえば、家族のこと。椿山は、妻と息子、そしてぼけて病院に入っている父のことが気がかりである。また、結婚前に付き合っていた佐伯との関係を邪淫の罪と断じられたことに、何としても納得ができず、彼女の気持ちをもてあそんでいたわけではないことを、何とかして確認したいと考える。

テキヤの親分は、自分が誰と間違えられて殺されたのか、どうしても知りたい。また、自分が親がわりになって面倒を見てきた薄倖な子分たちの行く末が心配でたまらない。

少年雄太は、裕福な家庭のぼっちゃんとして育ったが、実の両親ではないことが実はわかっている。自分をもらって育ててくれた裕福な家庭のぼっちゃんになり切るために、貧しい両親のことを忘れたふりをして生きてきたことが苦しくてたまらない。

そんな彼らが、本来とは全く違う姿に変えられて、現世に戻って経験する出来事とは。これがまあ浅田節で、笑わせる、泣かせる。さすがお手の物。

亡くなった家族が亡霊のようにあらわれて、現世で迷う主人公に何らかの示唆を与えるというシチュエーションは、浅田の得意技。『メトロにのって』『鉄道員』などがその代表。しかし、死んだ当人が、いかにも現代らしい合理的な制限を与えられて現世に戻り、ドタバタを展開しながらも、ストーリーはある一点を目指して大きく渦巻いて、というのは、全く逆の発想ながら、とても面白い。何しろ死んだ彼らは、必要なものが何でも出てくるバッグを与えられており、困ったときには中陰の事務所といつでもつながる携帯電話を持たされているのだ。ドラえもんのポケットみたいで、少々ずるではないか。

ストーリーを説明するわけにいかない小説なのである。一人一人のキャラづくりは、相変わらず濃くて、うまい。浅田得意の婦人服業界、極道の世界。身の上話をする女の一人語り、と得意技が展開される。そして、涙腺を刺激するおじいちゃんと少年。泣かせ、泣かせて大団円。

歴史を学ぶときには、自分の身近なところから学んでいくべきだ、と浅田はある講演で語った。自分は一人だけで生まれてきたのではない。親がいて、その親がいて、そしてその親がいて……。命は連綿と続いているものだ。そのことを思い出させるために、浅田は、現世に立ち戻る死者を描いているように思う。

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