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2005年6月 4日 (土)

『古本道場』 角田光代・岡崎武志

古本道場
古本道場
posted with 簡単リンクくん at 2005. 6. 4
角田 光代著 / 岡崎 武志
ポプラ社 (2005.4)
通常24時間以内に発送します。

古本道場主の岡崎武之進こと岡崎武志の指令を受けて、古本道初心者の角田光代がまちを歩く趣向。毎回、あるエリアの古本屋が何店か指定され、テーマが与えられると、角田はまちを歩き、自分で本を探す。角田によるその一部始終の報告があり、それを受けて道場主の講評、そして次の指令、という構成。

角田が、本に親しんでいる人ではあっても、古本道の素人であることで、読者は救われる。いきなり「古書店命」みたいなディープなノリで始まると、「そういう方たちはそういう方たちでやってください」という気持ちになって、思い切り引いてしまうから。そうならないように、というのが本書の狙いであるだろうから、半分腰の引けている読者を、「面白いよ」と導くのには、角田のキャラクターはぴったり!である。平均的な感性の持ち主では必ずしもないし、さまざまなことに独自のこだわりを持つ性質でありながら、わからないものはわからない、好きなものは好き、と明解だ。そして、これは大事なことだけれど、まち歩きが好き(方向音痴みたいだけど)、そしてもちろん本が好き。

さて、まずは入門心得である。

    其の一  わたしはわたしの風邪をひく

    其の二  古本屋と新刊書店は別業種

    其の三  買いたいと思ったときに本はなし

    其の四  古本ファッション

    其の五  万札は避けよ、小銭を用意

少々語呂が悪いのはご愛敬。この入門心得は、非常に大切なことを言っている。ここだけでもまずは頭に入れておきたい。

さて、まちに繰り出す。

「王道の神保町で、子ども時代に愛読した本を探せ!」という第一の指令を携え、角田は神保町に出かける。意気揚々と、と書きたいところだが、ぶつぶつ文句を垂れながら、あまり乗り気ではない。最初から、少々困った入門者なのである。

この町には二年ほど通ったのだが、それでも、頑として親しくなってくれない町だった。道が入り組んでいて、そのどこにも古本屋があり、それらの古本屋はなんとなく入店を拒んでいる気がして、私がいつも足を向けるのは〈三省堂〉や〈書泉グランデ〉という新刊書店ばかりだった。喫茶店や食堂も混んでいて落ち着かない。この町は歩けば歩くほど、よそ者感を覚えるところだ、という印象が今も残っている。

この感覚はよくわかる。通(つう)の町といったところは、よそ者感を感じさせるのだ。角田の修行はここからスタート。児童書・絵本専門の古書店で、角田は『いやいやえん』(我が家には何十年前のものがあります)や『ちいさいモモちゃん』を買う。古書店に対する先入観がまず一つ崩れるのがわかる。へぇ~、こんな古本屋さんがあるんだ!ってなもの。

エッチ本に関する観察は、角田ならではの視点。「昭和30年代から50年代はじめころまでのエッチ本は、とんでも本の趣があって、見ているだけで口元がゆるんでくる」と書いている。

こんなふうに一々紹介していたら切りがないので、まあ、読んでみてくださいと言うのが良いのだが、どんな町を角田が巡ったのかを紹介すると、

  神保町 代官山・渋谷 東京駅・銀座 早稲田 青山・田園調布 西荻窪 鎌倉 ふたたび神保町

道場主の修行場の選択には、それぞれ深い意図があるようで、角田はその意図を、勘の良さで喝破しつつ、古書店巡りを楽しんでいく。ふんだんに挿入された写真がとても良い。古書店主の顔であったり、本を読みふける幼児であったり、古書店の正面からの写真であったり、圧倒的に本だらけの書棚であったり。においが、手触りが伝わってくる写真たちである。

私の、本書の楽しみ方は、角田がどんな本を選ぶかなということより、町歩きそのものだった。角田とともに歩いた気分になったのだ。古本道とはまずは町歩きと見つけたり、という印象である。そもそも新刊書店とは異なり、当然この本がこのタイミングで置かれているという前提で成立していないのが古書店である。行って見てみないことには、何も始まらない。さっきあったのに、今はもうない。昨日はなかったのに、今日はある、ということはしょっちゅうなのだ。その町が、その古書店が好きになること、なじむこと、これなくして古書道は始まらない。

しかし、考えてみれば、好きな町で、なじみの店を見つけるって、何も古本に限らないことじゃないか、と思う。そう気づくと、実は新刊書店のほうが不思議な存在という気もする。新刊書店には、コンビニ的な役割を期待していることに気づく。

まずは町を歩き、なじみの店を見つけることなんだな。ブックオフの均一棚で掘り出し物を見つけるのは、古本市場をよく知ったうえでの高度な技なのかもしれない。

ポプラビーチはこちら

岡崎武志のブログはこちら

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コメント

こんにちは。コメントありがとうございました!
TB機能を使用できていないので、文中リンクさせていただきましたです^^
http://d.hatena.ne.jp/nao3307/20050430/p1#c

投稿: 3307(さんさんまるなな) | 2005年6月 4日 (土) 16:57

>3307さん

それはわざわざ恐れ入りました (__)
トラックバックもありがとうございます。

岡崎武志の『古本でお散歩』『文庫本雑学ノート二冊目』
出久根達郎の『古本夜話』
田中栞の『古本屋の女房』

を勢いに乗って借りてきました。

投稿: とみきち | 2005年6月 4日 (土) 21:00

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