『A2Z(エイトウズイ)』 山田詠美
講談社 (2000.1)
通常2~3日以内に発送します。
これもお勧め! 山田詠美、巧い、巧すぎ。そして、真摯で、考えさせられる恋愛小説だ。タイトルのA2Zは、アルファベット26文字をあらわしている。各章のキーワードとなる単語は、Aから始まりZで終わる。
主人公の私は、35歳の文芸編集者、夏美。他社の文芸編集者である夫、一浩は、たまに同じ作家を受け持つことがあるライバルでもある。夫が、恋人がいることを白状した。そのこと自体がaccident。夫は、そのことを夏美に言いたかったのだと言う。夏美も実は、25歳の恋人がいる。会社のそばの郵便局員、成生(なるお)。
夏美は、成生との恋を楽しむ。恋の始まりを楽しみ、恋に落ちていく過程を楽しみ、成生が恋する気持ちを語るのを楽しむ。夏美は、仕事にもエネルギーを傾ける。女友達との関係も大切にする。夏美にとって人生は、斜に構えて傍観しているものではない。渦中に飛び込んでいって、自分のからだや心や言葉で味わいつくすものだ。
恋は始まった途端に、終わる運命にある。夫婦っていうのは、それでは何なのか。夫婦の持続と、他の異性との恋愛は成立するのか。夫婦のかけがえのなさとは何なのか。そういうことを、日々考えて暮らしている夏美。
夫婦で交わす会話。
「小説ってさ、なんで、あんな大昔からあるのかねえ」
「必要だからだろ?」
「でも、なくたって良いものな訳じゃん。実際、本、読まない人だっているんだしさ」
「そういう人たちも、きっと、文学に代わる何かを必要としてると思うよ。肉だって、生のまま切って出されてもうまくないじゃん。いくら刺身が新鮮なのが良いったって、海で泳いでる魚に囓り付く奴いないだろ。手間をかけたものに出会わなかったら、ただ生きのびてるだけになっちゃう。世の中に一大事が起ったら、真っ先に淘汰されるのは文学だ、なんて嘯いてる作家、おれは嫌いだね。じゃ、止めればって、感じ」
恋を持続させるためには、双方が頑張り続けなければならない。長続きさせたいと双方が願っていても、最初の頃の恋の特別感は持続しない。会社の仲間、親友、夫婦、恋人、編集者と新進作家等々の会話は、それはそれは巧みで、うならせる。ここかしこに、どこかに引用するか、自分の言葉みたいな顔して使ってみたい表現がある。山田詠美、小説づくりが何故にこれほど巧いのか。
とはいえ、本書が嫌いな人もいるかもしれないと、ふと思った。それは、「恋」というものが世の中にあることを憎む立場の人、とでも言おうか。「浮気される立場」に常に自分を固定して考えている人、と言うべきか。そういう人から見たら、この小説は随分不謹慎に思えるのかもしれない。「あの時、会いたい優先順位は彼女が一番だったけど、失いたくない優先順位は、いつもナツだった」なんてぬけぬけと言う夫、どうですか? 私は、こんなことを妻に向かって言う一浩が、かなり好きです。
足を引っ張り合うのではなく、互いに牽制し合って生きるのでなく、競い合っている二人。自分の弱点を自覚したうえで、それを相手に受容してもらう心地よさを知っている、適度にずるく、賢い大人たち。
身をこがすような恋も素敵。でも、交わす言葉が通じ合う相手というのは、そうそう見つからないものではないかしら? 相手の何から何まで知り尽くして、まるで相手の主治医にでもなったような気持ちでいたのに、まだ知らないことがあったという発見を、素直に認めることができる、賢い大人たち。どの登場人物に共感しつつ、この小説を読みますか。
読売文学賞受賞
文庫も出ています。
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» 山田詠美にはまる [吟遊旅人のつれづれ]
ああぁ〜、またまたとみきちさんにそそのかされてしまった!
この人のお奨め上手にはいつも完敗でございまする。もうあなたのいいなりよっ、てな感じ。
ぼくは勉強ができない。と宣言して周りの好意的笑いを受けてしまう、とってもナイスな高校生が主人公。秀... [続きを読む]
受信: 2005年8月13日 (土) 20:30
» A2Z / 山田詠美 [書庫 ~30代、女の本棚~]
山田詠美にはまった時期があった。
次々と作品を読みまくっていた。
それが落ち着いて暫く山田詠美から離れていた或る日、書店で装丁が気に入って手に取ったら山田詠美だった。
そして数ページ見てみたら、読みたくてたまらなくなった。
手にした当時、20代半ばだったから... [続きを読む]
受信: 2005年9月12日 (月) 10:37
» 「120%COOL」山田詠美 / 都会的な恋愛模様 [辻斬り書評 ]
山田 詠美
120%COOOL
山田詠美? ああ、女版村上龍ね。
いつかしら、こんな台詞を聞いたことがある。
女版、村上龍。
僕のなかで村上龍の評価は定まっている。
外部社会の目線を身体に取り込むことに成功し、愚昧なままにとどまる社会を挑発する作家。
よ... [続きを読む]
受信: 2005年11月 8日 (火) 11:46





コメント
困りますっ!
そんなふうにお奨めされたら(笑)。
> 「あの時、会いたい優先順位は彼女が一番だったけど、失い
> たくない優先順位は、いつもナツだった」なんてぬけぬけと
> 言う夫、どうですか? 私は、こんなことを妻に向かって言
> う一浩が、かなり好きです。
うわああ、わたしもかなり好きです(^o^)。
こりゃー、お奨め本リストがまたしても積ん読山になりそう。とみきちさんのお奨めにはいつも参っております。
投稿 ピピ | 2005年7月 8日 (金) 19:26
>ピピ姫さん
毎度どーも(笑)。まただまされてやってくださいなぁ。
大丈夫、この本は一日で読めますから。(降りる駅を乗り越しても責任とりませんが)
フーコーの合間にでも、おやつがわりにどうぞ。あ、フーコー月間はもうとっくに終わってるのでしたっけね。
あ、そうそう、恋愛中に読むと、とっても良い、と友達が言ってました。
投稿 とみきち | 2005年7月 8日 (金) 21:40
> 恋愛中に読むと、とっても良い、と友達が言ってました
わっかりましたぁ! 早速恋します。
投稿 ピピ | 2005年7月 8日 (金) 23:45
ピピ姫さん
>わっかりましたぁ! 早速恋します。
んも~~~っ、言うことなしのベストなリアクション!
投稿 とみきち | 2005年7月 9日 (土) 00:24
さらりとワインの水滴を指先でなぞって、
光る文体に恋しました。
こういう本を書く人だとは、知りませず・・
食わず嫌いの本嫌いのてふが、夢中になりました。
一陣の風が吹き、GSの男の子にくらり・・
あらら、危険であります。(@^^@)
突然、お邪魔して失礼しました。
投稿 tehu | 2005年7月18日 (月) 10:36
>てふさん
こんにちは。
お気に召して嬉しいです。
読んでいる間、別の世界に連れていってくれますよね。『風味絶佳』も良いですよ!
投稿 とみきち | 2005年7月18日 (月) 13:58
>てふ さん
はじめまして。
お気に召して嬉しゅうございます~。
現実を忘れて没頭できる小説、でしょ。
ほんとに小説上手です。
投稿 とみきち | 2005年7月18日 (月) 15:09
>てふさん
いらっしゃいませ。
本嫌い、なんですか?
それはまた、なにゆえに。
でも、夢中になれる本に出会えて、良かったですね。
投稿 とみきち | 2005年7月19日 (火) 02:01
突然の書き込みにきちんと、コメントを下さって有難うございます(@^^@)
てふの本嫌いは、目が疲れる=眠くなる のでした。
とはいえ、ぼんやりと過ごす=あらぬ思考を飛ばす=現実からの遊離 が、好きなので、小説自体は、嫌いではないのです。
今回、本読み中は、周囲の声がけも、仕事もうつろ。相当、この本に没頭していました。満足!でも、すぐにこの人のほかの作品をと、喉が渇いてきました。
投稿 tehu | 2005年7月19日 (火) 22:07
>てふさん
あれま、コメントが三つになってる!
昨日、ココログが不具合で、コメントが書き込めず、エラー連発だったんですが、今になって蘇ったのですね。まあまあ、まるで、てふさんを恋いこがれているかのように(笑)。
投稿 とみきち | 2005年7月20日 (水) 01:17
はじめまして。朗読にはまっています。で、A2Zを、はじめと終わりの部分、丁度制限時間15分で収まるのです。本日稽古で披露しました。私が下手だったのだと思いますが、ケチョンケチョンでした。本番は6月。それまでになんとか・・・。いきなり図々しいと思うけど、アドバイスなど。私、他の人のように、高校の教科書的な作品は朗読したくないのです。風穴を開けたいの、この作品のように。
投稿 キム | 2006年4月16日 (日) 19:48
>キムさん
はじめまして。
コメントありがとうございます。
朗読ですか! はじめと終わりの部分というと、「a」と「z」を連続して朗読するということなのでしょうか。
そうだとしたら、夫一浩の浮気をaccidentに遭遇したかのように驚く気持ちと、最後の夏美の気持ちのおさまりとの間に、たくさんの葛藤や時間があった、という感じが出せたらいいのかもしれませんね。
私は朗読についてはなーーんにも存じませんから、それをどうやって表現したらいいのかは全くわかりませんが、頑張ってください!
投稿 とみきち | 2006年4月16日 (日) 21:29
ありがとうございます!朗読部分は、冒頭と終わりにある「たった二十六文字で、関係のすべてを描ける言語がある。」これをキーにAからZのエピソード入れず、読もうと思うのですが、難しいかなあ、やっぱ。ちなみに私は50代のおばさんですが、息子が「おっさんやおばさんにはわっかんないしょ」と言ってました。朗読は、おばさんだけでなく、若人にも楽しんでもらいたく、2月の発表会には、岩井志麻子の「私小説」を朗読しました。がんばるよ、私。
投稿 キム | 2006年4月17日 (月) 09:39
>キムさん
>朗読部分は、冒頭と終わりにある「たった二十六文字で、関係のすべてを描ける言語がある。」これをキーにAからZのエピソード入れず、読もうと思うのですが
なるほど、ストーリーの導入と結末のところですね。AからZで描けることがあると考えるところから始まって、人の関係はそう簡単に描けるものではない、というまとめで終わる。
それなら「AからZで表すってどういうことよ?」と聞き手が興味を感じたら成功!かな?
頑張ってくださいね!
投稿 とみきち | 2006年4月17日 (月) 20:04
そうなんだけど、迷い始めて、A~Zのどこかをピックアップして読もうかと・・・。
仕事で慌ただしく。練習どころか、本を読む暇もありませぬ。ウウウ・・・
投稿 キム | 2006年4月20日 (木) 23:09
>キムさん
迷い始めちゃったんですか! あららー。朗読ってご自分の血肉になった文章でないと、なかなか難しいのでしょうね。時間がないほうが集中できるかもしれませんよ!
投稿 とみきち | 2006年4月20日 (木) 23:24