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2005年7月 5日 (火)

『柳兼子の生涯  歌に生きて』 小池静子

柳兼子の生涯
柳兼子の生涯
posted with 簡単リンクくん at 2005. 7. 5
小池 静子
勁草書房 (1989.11)
この本は現在お取り扱いできません。

柳兼子は、柳宗悦の妻であった人である。そして、80歳半ばを超えても、リサイタルを開いて歌っていた、日本の最初の本格的なアルト歌手である。著者は、1989年の本書刊行時は、国立音楽大学勤務、兼子の晩年のお弟子さんである。兼子の生涯を書き残す目的で、兼子自身から、生い立ちから始まり、さまざまな生涯の出来事を聞き書きし、一冊の本にまとめたものだ。

帯は、鶴見俊輔が書いている。

この本を読んで

柳兼子さんから五度ほどお話をきくことができた。大きい人だという印象をもった。その人がどのようにそだったのか、小池静子さんの伝記を読んで知ることができた。

 この伝記は対象にまけない大胆な筆のはこびである。兼子さんの気風をうけついでいる。遠慮がちな筆づかいでなく、対象のりんかくがはっきりとたちあらわれる。日本の洋学史にとって貴重であるだけでなく、ひとりの日本人の肖像として心にのこる。

全体は4章に分かれている。「青春期」「宗悦の妻として」「民芸に協賛して」「歌に生きて」。下町育ち、芯が強く、浮ついたところのない、真っ直ぐな性格の人だったようだ。宗悦とは恋愛結婚なのだが、宗悦が、仕事を最優先し、民芸にすべてを賭けて、家庭を省みない、わがままな夫であったため、兼子は身を粉にして働き、男親のかわりも自分が果たし、生活を支えた。

音楽に対する姿勢は一途で揺るがなかった。昭和二十八年(兼子五十代)、東京新聞に載った山根銀二との対談から一部抜粋。

今考えて見るとペツォールド先生は生徒に芸の楷書をたたき込んで下さったのではなかったでしょうか。曲を教えながらも、いろんな意味で楷書を教えられたんですね。……この頃考えますのに、歌の勉強には基礎の訓練が一番大事だということです。……西洋音楽は日本に伝統がないんですから、なかなかその根のところに触れる、芸の底に触れることが難しいんです。これがお稽古には大切なんだけれども、……日本にある芸術で、もっとしっかり根をはった立派な芸術、例えば能でもそうですが、そういうものに感心になって学ぶことが大切だということですね。(…中略…)

もし私の歌に感心して下さる方があったらね、それは私の歌の技術でもなければ何でもない。それは私の心がその方に通じたんだと思うわ。それ以外に何にもない。(…後略…)

著者は、宗悦との関係について、このように書いている。

宗悦との晩年は、必ずしも共に助け合い理解し合った仲のいい夫婦ではなかったにせよ、兼子にとって民藝館は思い出多い所であった。宗悦の民芸運動を陰で支え続けた兼子の存在は、形には現れなくとも、その功績は大きなものがある。宗悦の民芸品の蒐集にしても、朝鮮美術館の開設にしても、京都時代にも常に兼子は宗悦の協力者であった。決して資産があってやったのではなく、常に経済的には困窮している場合が多かった。それを兼子の演奏活動や、歌のレッスンで賄ったのだ。兼子の半生は宗悦の民芸運動と共にあったも同然である。

弱音を吐かず、現実に対応して、とにかく信ずる道を一途に進む人として、著者は兼子を描いている。年齢を重ねるにつれ、その歌に兼子という人のすべてがあらわれ、深みを増していったというのはうなずける。

生活にも、芸術にも、全力を傾ける女性の生涯は、何故かくも魅力的なのか。岡本かの子を思い出す。兼子は、かの子のような奇矯なふるまいはしなかったようだが、頭を下げず、曲がったことが嫌いで、如才なさのかけらもなかったようだ。可愛げがなく、才能のある強い女性を、包み込むほど大きな男は、滅多にいるとは思えない。宗悦に包み込んでもらえない自分を支えるものとして、さらに心が歌に向かっていったのだろう。女性の強さの一つの形、という気がする。それに比較して宗悦は、兼子に甘えたうえで自分の好きな道に邁進していた明治男、という印象の小池静子の描き方である。

鶴見俊輔は宗悦についてどのように書いているのだろうか。1976年に鶴見が著した『柳宗悦』(平凡社選書)を図書館に予約した。

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