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2006年4月 6日 (木)

『種田山頭火随筆集』 種田山頭火

山頭火随筆集
山頭火随筆集
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種田 山頭火〔著〕
講談社 (2002.7)
通常2-3日以内に発送します。

種田山頭火は1882(明治15)年、山口に生まれ、1940(昭和15)年に没した俳人である。放浪の俳人と言われている。本書は、山頭火の俳句、随筆(初期随筆、出家以降)、行乞記(抄)から成っている。

山頭火の人生は、幾つかの時代に分けられると思うが、最もざっくりとした分け方が、出家前/出家後であろうと思う。出家したといっても、決して悟りすましているわけではない。袈裟を着て行乞をして全国を旅して歩いたが、本来の行乞の主旨である、その日生きながらえるに必要な食べ物と寝床を与えてもらいながら修行をする、というのではない。ひとところにじっとしていると、精神が停滞し鬱屈してくるから旅に出る、というだけのことである。行乞など本来はしたくないのだけれど、その日の宿と食を得るためにしょうことなしにするのである。そして少しでも余分にお金が手に入れば、酒を飲んでしまうのだ。生活のおおもとは、はなから友人をあてにしての暮らしである。

山頭火は旅にあっても、定住しているときでも、日記をつけている。山頭火研究者の村上護は解説で、「明確な執筆意識をもって取り組んでいる」と書いている「行乞記」である。そのほんの一部を紹介する。

昭和5年10月18日

(…前略…)比宿はよい、待遇もよく賄もよく、安くて気楽だ、私が着いた時に足洗い水をとってくれたり、相客の喧騒を避けさせるべく隣室に寝床をしいてくれた、老主人は昔、船頭として京浜地方まで泳ぎまわったという苦労人だ、例の男の酔態に対しても平然として処置を誤らない、しかし、蒲団だけは何といってもよろしくない、私は酔うていなかったらその臭気紛々でとても寝つかれなかったろう、朝、眼が覚めると、飛び起きたほどだ。(…後略…)

昭和5年10月19日

因果歴然、歩きとうないが歩かなければならない、昨夜、飲み余したビールを持ち帰っていたので、まずそれを飲む、その勢で草鞋を穿く、昨日の自分を忘れるために、今日の糧を頂戴するために、そして妻局留置の郵便物を受取るために(酒のうまいように、友のたよりはなつかしい)。(…後略…)

昭和5年12月12日

(…前略…)行乞! 行乞のむずかしさよりも行乞のみじめさである、行乞の矛盾にいつも苦しめられるのである、行乞の客観的意義は兎も角も、主観的に悩まずにいられないのである、根本的にいえば、私の生存そのものの問題だえる(酒はもう問題ではなくなった)。(…後略…)

昭和5年12月18日

終日歩いた、ただ歩いた、雨の中を泥土の中を歩きつづけた、歩かずにはいられないのだ、じっとしていては死ぬる外ないのだ。

朝、逓信局を訪ねる。夜は元寛居を訪ねる、煙草からお茶、お酒、御飯までいただく、私もいよいよ乞食坊主になりきれるらしい、喜んでいいか、悲しのか、どうでもよろしい、なるようになれ、なりきれ、なりきれ、なりきってしまえ。

本書収録の山頭火の随筆を読むと、文章は明晰で、また、驚いたことに(!)非常にまっとうで、社会性もバランスもある。文章を読む限り、どこにもおかしなところはないように思える。しかし彼の日常は、給料をもらって働くことは全うできず、ひとところにじっとすることができず、家族を養うこともできず、生に執着しながらも自殺を図り、酒を飲み、どろどろになる日常だ。若い頃は内性的な文章も書いているが、自分は生産的な人間にはなれないのだ、俳句を書くしか能のない人間だと見定めてからは、俳句を通して生きていくことしかできない自分を許してもらおう、こういう生き方も許してもらえるのではないか、と考えるようになっていく。

性格は穏やかで、友達も多く、また援助者もたくさんいて、憎めない人物。人柄等による迷惑はいっさいかけないものの、生活力がないことと酒に飲まれてしまうことで、多大な迷惑をかけた人である。

その一生をどのように評価するかは、さまざまな人が評伝を書いているが、前述の村上護の手になる種々の本のほか、岩川隆の『どうしやうもない私 わが山頭火伝』が秀逸。

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