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2007年4月 9日 (月)

『読書の腕前』 岡崎武志

本を読み、文章を書くことだけをよりどころに生きてきた、運動も勉強も苦手という筆者が、大好きな読書について綴ったエッセイ。本好きが読めば読書欲がいやがおうでも刺激されること請け合い。そういう意味では、「一般中級」以上の読者向けかもしれない。

しかし、本を読むのは面倒だ、テレビのほうが楽でいい、と思っている人が万一この世にいるとしたら(笑)、あなたが読書の楽しみを知らないことでどれだけ損をしているか、ということが本書を読めばほんのちょっとわかるかもしれません。

そして、

……「ゴルフ」に夢中の人は、ゴルフ雑誌やゴルファーの書いた技術書に手を出すだろう。それと同じく、本をたくさん読めば、自然に「本の本」が集まってくる。ときに、本それ自体を読むより、本について書かれた本のほうがおもしろいくらいだ。そこで紹介された本がまた読みたくなり、あるいは著者が本を読む姿や仕種を追うことで、読書欲が刺激される。これは読書の永久運動だ。

と本書にあるように、「永久運動」に組み込まれてしまえば、あとは自動運転状態になります。本書は、その運動のスタートのきっかけになり得るかもしれません。

さて、本書には本好きの身として楽しめる部分が随所にあったけれど、なかでも面白かったのは、何を読むか、何を買うかという話よりも、本をどこで読むかという話。それも「鈍行列車に揺られ……日帰り読書旅」の一節。

……この数年、本を数冊カバンに入れて、ほとんど目的なしの日帰り旅行に出かけるようになった。それを可能にしたのが、JRで売り出される「青春18きっぷ」。

(…中略…)

もちろん私のことだから、下車駅周辺の古本屋をチェックすることは忘れないし、「宇都宮」では版画家の「柄澤齋展」、「児玉」では吉田健一のエッセイ「ある田舎町の魅力」の文学散歩などの用は果たしたが、長時間の車中を読書に費やすことも大きな目的だった。片道二、三時間の旅。たいていの本なら往復で一冊読み終えることもできる。

これはとても良いアイディア! いただき! 学生時代、ほんのときたまだけれど、輪行自転車を積んで直角椅子の列車に揺られて旅をした、あの懐かしい経験がよみがえる。今でこそ車に乗ることのほうが圧倒的に多い生活をしているが、私はもともと列車に乗るのが大好きなのである。ゴトゴトと揺られる列車での読書。今最大の実現可能な贅沢かもしれない。

また、次のような部分に著者のスタンスがよく表われている。「自分がいかにものを知らないかを確認する」の一節。

吉田健一は『文学の楽しみ』(河出書房新社)のなかで、文学がいったいなんの役に立つのか、という問いに対して、こう答えている。

「文学から得られる楽しみはただそれだけで充分であって、それを他のことに使う気も起こらないという議論が成立する。これは間違いないことであって、人間に与えられた色々な楽しみのなかで文学のように精神の隅々まで行き亘って肉体はただその精神を地上に棲息させる為の道具としか思わせないものは滅多にない。」

(…中略…)もちろん本=文学ではないが、私は吉田健一のこの文章を読むたびに感銘を受けるし、本を読み続けていくことへの励みにもなる。

ひとつはっきりしているのは、私の場合、本を読むことによって、自分がいかにものを知らないかを確認できる、ということだ。自分は知らないことだらけだ、ということが本を通してわかる。つまり、知らないことを知ることで、はじめて「それを知らなかったこと」に気づくのである。そして、知らないことを知ることは、つねに気持ちがいい。

知らないことを知ることで、はじめて「それを知らなかったこと」に気づく。

こういう姿勢で人生を生きていきたいと思う。無知であることを知らない人は、恥を知らない。自分がどれだけの人間でもないということに無自覚である人にはなりたくないと思う。そのために本を読むわけではないけれど、本を読む人と読まない人は、その自覚の分だけ違ってくるかもしれない。何の本を読んだか読んでいないか、ということを自慢したり人と競ったりする人は、残念なことに読書を通しても「知らないことを知ることができなかった人」なのだろう。

どしどし本を読もう。

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コメント

始めまして。まだ全部読みきれてません。
驚きました。どういう時間の使い方をして、こんなにたくさんの本が読めるのでしょうか。
これからもお邪魔させていただきます。

>どしどし本を読もう。
いいですね、「どしどし」という言葉が。
それではまた。

投稿: alzheimer | 2007年4月10日 (火) 21:13

>alzheimerさん

はじめまして。ようこそいらっしゃいました。

全然たくさんじゃないんですけれど、読んだかどうかすら忘れるようになってきたので(笑)、記録しておきたいと思いたって始めました。

「何かお薦めの本ない?」という難しい質問に対しても、ブログを書いておけば怖くないかなと。

最近更新が滞っていますが、ぜひまたいらしてください。

投稿: とみきち | 2007年4月10日 (火) 23:12

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読書の幸せ   ★★★★★ 岡崎 武志 読書の腕前 この本は、本を読む幸せではちきれそうになっている。 どこをめくっても、本がもたらす幸福がさえずり歌っているようだ。... [続きを読む]

受信: 2007年4月23日 (月) 09:20

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