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2007年9月17日 (月)

『反省 私たちはなぜ失敗したのか?』 鈴木宗男・佐藤優

本としてはとても面白かったけれど、内容は、ぞっとするほど恐ろしい外務官僚の実態が描かれていました。マジですか?って感じ。鈴木宗男逮捕は、検察による国策捜査であったこと、鈴木宗男逮捕ありきで、佐藤優は逮捕されたのだ、というからくりを、検察とのやりとりを中心に書いたのが、佐藤優第一作の『国家の罠』でした。

その後、裁判は続いていますが、鈴木宗男は政界に復帰、佐藤優は今は「作家」という肩書きで活動しています。彼らは、過去の自らの間違い、認識の甘さを告白するとともに、外務省が損なった国益について厳しく糾弾しています。

本書の大きな目玉は、鈴木宗男疑惑の際に、日本共産党幹部として鈴木宗男、佐藤優の両者を追及した筆坂秀世元参議院議員が、外務省の秘密書類が匿名で共産党に流れてきた経緯を証言しているところです。その情報を知り得た人物は、外務省の中でも限られていることから、外務省幹部であったこと。そして彼らが革命政党である日本共産党に秘密を流してまで、有力政治家、検察を動員してまで、鈴木宗男逮捕にやっきとなったその目的は、ほかならぬ自己保身であった、という指摘がなされています。その際に、辻元清美議員にも同じ文書が流れたことが、辻元議員のあの「嘘の総合商社」発言につながるわけです。

佐藤 日本共産党は綱領においてアメリカ帝国主義を打倒対象としている。その日本共産党に対して外務省の秘密文書が流れ、それが度重なれば、安保体制の根幹そのものが揺らいでしまう。ここは外務省の幹部も非常に心配している。だから、外務省は当時情報を流した連中を間違いなく特定しています。今後見ていれば、よくわかります。その連中は人事的に重要なポストには絶対に行くことはありませんから。われわれの官僚の世界の業界用語でいえば「マル共」に秘密情報を流したら、これはもう大変なことなんです。

佐藤 普通ならば、共産党がらみだから警視庁公安部が出てくる。検察も入るでしょう。国家公務員法違反ですね。最近の自衛隊の情報漏洩よりも、ずっと悪質な話だったはずなんです。つまり外務省では「正義の告発者」すらも信用できない。政府側の人間が革命政党と手を握って自己保身の嘘をつき、しかも組織として誰ひとり摘発も処罰もできない。

 この瞬間、私は「外務省という組織は終わった」と考えています。外務省は情報漏洩にかかわった人物を割り出し、彼らを徐々にメインストリートから外していく。マラリアなんかでなるべく早く死にそうな場所とか、交通事故なんかに巻き込まれやすい危険な場所に配置して、さっさと消えてもらう人事をする。それで事件を永久に終わりにするつもりでしょう。

その他、国策捜査の非情さの例として、鈴木宗男事務所の佐藤玲子氏を死に至らしめる結果になった話が挙げられていました。佐藤氏は2002年7月23日に、政治資金規正法に基づく収支報告書の不記載の容疑で逮捕されましたが、政治資金報告の責任者は代表者なので、一事務員には責任が及びません。なんの権限もないから、逮捕しても起訴できない。それを承知で彼女を捕まえたのは、鈴木宗男に不利な供述調書をつくるためです。

彼女は4月末に子宮がんの大手術をしたばかりだったのに、手術前から検察は病院に押し掛けて事情聴取、手術後の自宅療養中にも押し掛けていました。7年前に乳がんで大手術をしたあとの転移の手術であり、放射線治療で通院している最中に逮捕したわけです。小菅の医療施設では放射線治療は受けられない状況でした。その中で、彼女から真実ではない調書をとります。彼女は、鈴木宗男の第一回目の公判で、「鈴木の指示は受けていません。検察の作られたシナリオに乗ってしまいました」と証言しました。しかし、一審の裁判長は、調書のほうが信用性が高いとして、彼女の証言を退けます。

そして、8月13日に彼女は釈放され、鈴木宗男が8月29日に保釈になった時点では、彼女は入院中だった。しかし、検察の保釈条件は、佐藤玲子との接触はダメということになっていた。電話もダメ、人を介しての連絡もダメ。接触すればまた収監し、保釈金も没収という条件。結局2003年9月20日に彼女は亡くなります。鈴木宗男は、佐藤さんの生存中に会うことはかなわず、翌年夏にお墓参りをするのが精一杯だった、といいます。

鈴木 取り調べ中に「やまりん」は別件逮捕で、本当は三井物産で立件したいのだろうと検察官に聞いたら、「世論に押されてやりましたが、マスコミに出たものではなに一つ事件にできませんでした。まあ、それが捜査というものです」と言った。カッときて「ふざけるんじゃない。最初から思い込みで逮捕したのか。国策捜査じゃないか」と声を荒げたら、「はい、権力を背景にしておりますので、そう受け止められるなら、そのとおりです」と言う。

(中略)

佐藤 今は検察官の学力があまりにも低下して、週刊誌本文のレベルについていくのがやっとです。週刊誌の中吊り広告レベル、ワイドショーの芸能コメンテイターの水準で、中吊りの文言に反応して正義の味方を気取ってしまう。東京地検特捜部のレベルというのは、架空の物語をでっち上げる能力はあるけれども、捜査能力は低い。ワイドショーのコメンテイターが検察官を務めても、同じくらいの業績は上げられる。これは間違いないですね。

 検察とはそういうものだと考えたほうがいいので、検察が公益や国益を無視して暴走することをいかに防ぐかが、この民主主義国の大きな課題です。これが私たちの反省から得られる結論でしょう。

さらに、日本には司法権の独立は存在しないといっています。検察官だけが、起訴・不起訴を決めるシステム(起訴便宜主義)になっており、検察が予審判事の役割を果たしているため、裁判が検察側に引きずられすぎていると指摘しています。日本では、起訴された事件が無罪になる比率は94件/83万7528件で0.01%(2004年)、アメリカはちなみに27%という数字が挙げられています。検察は行政であって、司法ではないのに、司法の役割を果たしている、ということを彼らは問題にしています。

会社のため、組織のために行動していたとしても、それが一転、犯罪とされ司直の手が入ると、ほとんど助からない、ということになるのかもしれません。いろいろなことを考えさせられますが、国家のために働くべき国家公務員のあまりにも恐ろしい実態に、最大の危機感を覚えました。すべての人がそうだというわけではありませんが、人は知らず知らずのうちに周囲の文化に染まっていくものです。外務省を中心に、官庁の方たちが本書を読み、自らの立場に落とし込んでよく考えてもらいたいと思います。

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