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2007年12月19日 (水)

『さらば外務省! 私は小泉首相と売国官僚を許さない』 天木直人

ジャンル的には暴露本、といえましょうか。外務省の駐レバノン特命全権大使であった著者が、解雇といってもよい形で外務省を去ったあと、題名のとおりの気持ちをぶつけて書いた一冊です。呆れるほど弛緩しきった仕事ぶり、国益を考えず、外交の歴史も学ばず、省内出世だけしか考えないその生態、人間的にも、官僚としても、およそ腐っていると言ってもいいような外務官僚の生態が、怒りとともに明らかにされています。どこまで割り引いて読んだらいいのかわかりませんが、怒りを通り越して、背筋が寒くなるほどです。

残念なのは、それらの実態を明るみに出すことが、日本国民によい影響を与えると著者が本当に考えているかどうか、という点で疑問が残ることです。

あとがきに「官僚組織の内側から官僚を観察してきた者として断言できることは、今日の日本に、国民のため、国家のために役立とうという高い志を持った官僚は皆無であるということだ。すべての官僚は、時の権力者に取り入って出世することに生き甲斐を感じるか、出世競争に敗れたと悟るや否や、少しでも見返りを確保しようと躍起になるかのどちらかである」と書いています。この文章を読むと、著者自身も一人の官僚として確かに働いていた、ということに対する責任感は皆無ではないかと感じられるのです。まったく無関係の人による評価であるように読めてしまいます。「観察してきた者」という傍観者的な物言いが、国民のために役立つべき立場にあった自分、というものを棚に上げてしまっていることの証です。その意味で、本書は「私怨」をベースに書かれているという指摘を免れることはできないだろうと思うのです。

著者には、自分が担当したことではない外交マターについての物言いも慎重ではなく、断言口調で書いてしまうという特徴があります。また、本書を読む限り、本当に心を許せる、あるいは信頼し合うことのできる友人というものが一人も登場していません。その意味で、たとえ正しいことを言っているとしても、その主張を周囲との調和のなかで組織内で(あるいは組織外の人脈の助けによって)大きな声に育てていくといった手腕がない人なのかもしれない、と想像することは容易です。

さて、本書および著者に対する私の評価は、残念ながらそれほど低いのですが、そうはいっても、ここに書かれている外務省の実態が事実無根だとも思えないのです。その意味で、著者の私怨、一方的な物言いを割り引いてなお、著者の次のような意見を読んで、うなずいてしまいます。

私はこれまでに外務省の現状はどうしようもなく劣化、空洞化していると指摘してきた。そしてその主たる原因が、異常なまでの対米追随の姿勢と、その方針に異を唱える者を排除しようとする歪んだ人事政策にあること、さらには一握りの外務省幹部が、外務省全体の自由な雰囲気を奪ってしまっていることになると指摘してきた。しかし外務省の誰もが、この現状に矛盾を感じながらも、行動を起こそうとはしない。これではいくら小手先の改革を試みても外務省は何も変わらない。外務省は一度全面的に解体され、あらたな組織に生まれ変わらねばならない。

しかし、著者はこのあと、このように続けます。

その外務省の解体は、官僚システム全体の解体につながるものである。けだし外務省の劣化と空洞化の問題は、日本の官僚組織全体に共通した病理だからである。さらに言えば、官僚組織の解体を梃子に、政権を独占し続けてきた自民党も解体しなければならない。政権交代のない政治は、官僚組織と癒着するようになる。そうした状況が連綿と続いてきたために、国民の利益を優先するシステムが日本には育たなかった。外務省が国民の利益とかけ離れたところで、質の低い外交に安住していられたのも、まさにこの歪んだ日本のシステムのおかげであった。

後半の「自民党も解体しなければならない」などのくだりになると、あなたは誰ですか?と言いたくなります。評論家なのか、はたまた、神なのか? 「解体しなければならない」と言い放つだけで解体できるなら、なにも苦労はしません。そういう理屈をふりかざしているだけでは、何の力にもなりません。

そして、本書を読んで、「そうだ、そうだ」と思った人たちが、我が意を得たりとばかりに、「官僚が悪い。官僚システムが悪い。自民党が悪い」と、わかったように言い募り、溜飲を下げて終わるのが関の山ではないでしょうか。昨今顕著な風潮の、犯人探しの尻馬に乗って、安全地帯から他人を非難する。そういう人たちがそれで事が済んだと思ってしまうとしたら、かえって良くない影響を与えることにもなりかねないとも思うのです。

「●●が悪い!」と言うだけで物事が解決した試しはありません。自分のこととして物事を考えず、対立する相手を非難するだけで事足れりとするのであれば、たとえ正しいことを言っていたとしても、非難される相手と大差はないと思います。言っている内容が正しいかどうかということ以前の問題だろうと思うのです。その点がとても残念です。

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