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2008年10月16日 (木)

とみきち屋番頭の「秋も一箱古本市」体験記(2)

古本市では思いも寄らぬご褒美をいただきました。ありがとうございます。「ただただ本が好きなだけ」という芽に水を注いでいただいたーそう受けとめています。「よ~し、一念発起していい本を集めるぞ」なんて似合いませんし、専門的な知識もありませんから無理です(笑)。1冊でも多くいい本に巡り逢えたら。そんな気持ちでこれまでどおり新刊書店、古本屋さんを徘徊するのみです。

それでは、予告したエピソード編。番頭の選書が偏っておりますため、ご存じない本の場合イメージが湧きにくいかもしれませんが、お客様とのやりとりをお楽しみください。とみきちのイメージを崩すことなどおかまいなしに、ガンガンいきます。

     『テロルの現象学』 笠井潔 ちくま学芸文庫

ミステリー、エンターテインメント小説などで知られている著者ですが、ファンは少ないのでは。私の知る限り作家吉本ばななくらいか。フッサールの現象学を用いて謎解き。ハイデガーやフーコーを思わせる人物が主人公と哲学論を交わしたりするのですから、好みでない方には全く合いません。ちなみにとみきちは私の薦めで、『バイバイエンジェル』を読了し、『哲学者の密室』に挑戦しましたが、イントロのみで「気持ちが悪くなった」と言って投げ出し、何年か経ってチャレンジして、再びイントロで挫折。その後は「笠井潔」の名前を出すと顔をしかめます。辞書のように分厚い単行本を見るたび、「文庫もあるんだから、どうにかしてよ。段ボール詰めの本がうちじゅうを占領してる!」とご機嫌ななめ。以下、そんなとみきちがお客様と交わした会話です。

本を手にとられ考え込んでいる男性のお客さまに、店主(とみきち)「笠井潔お好きですか?」「う~ん、はまりそうで恐いので、今までは敬遠していたんです」「先ほど、いかにもお買い上げになりそうなお客さまがいらしたんですよ」「えっ!!!! 笠井潔が好きなタイプってわかるんですか?」「あっ、そうじゃないですよー。もう少しでお買い上げいただけそうだった、という意味です。まだ残っているということは、お客様をお待ちしていたんですねー。これもご縁ですから、思い切って、ここで一歩踏み出してみる! っていうのはいかがでしょうか」「……よ~し、思い切って買っちゃおう!」

実は、この本の引き取り手はまず現われないだろうと思っていました。「なくなったよ」と、とみきちから聞いて驚きました。さらに売れた時の話を聞いて愕然。信じられませんよね、この性格。ああ、でも買って頂いた(30歳ちょっとくらいの)男性とお話ししたかった。とみきちは笠井本が減ったことに満足気ですが、ここだけの話、単行本以外に全く同じ文庫本を持ち歩き用に所有しています(笑)。 ← こら~~~byとみきち)

■『マヌ法典(サンスクリット原典全訳)』 渡瀬伸之訳 中公文庫

今回の目玉商品の一つ、『マヌ法典』を真っ先に手に取ったお客さまがいらっしゃいました。店主一人で店番をしていたときのこと。「あのーー、『マヌ法典』をご存じですか?」「いやー、最近ちょっと遺跡の勉強を始めたので、やっぱり手元にあったらいいなぁとは思うんですけどね、値段が高くて」。(自分で値付けをしていない店主は、幾らだったか忘れている)「そうですか。幾らにしていましたっけ?」(値段を確認して)「あーー、4,000円。高いですよねー。すみません。いいです、いいです、お買い上げいただかなくて。うちも、看板代わりに出しているようなものですから。すみませんね」と言って、元の場所に戻す。そのうち、お客さまが立て込んできて、その方は立ち去られました。

そして、数分後、戻って来られたそのお客さま、「やっぱり『マヌ法典』、買うことにしました」「ええっ?!! いいですよ、買わなくて。これ、高過ぎますから」「やっぱり手元に持っていたいかなと思って」「本当によろしいんですか? うわ~~、『マヌ法典』、お買い上げ~~~~!! ありがとうございます~~!!」

とみきちの喜びの声を聞き、番頭はお礼を申し上げるため、お客様の元へ。早稲田青空古本祭月の湯古本まつり、そして秋も一箱古本市と連続で回られ、特に早稲田では図版入りの高価な本を購入されたとかで散財のご様子。なのに、まさかお引き取りいただけるなんて。「どうやってこの珍しい本を手に入れたんですか?」とお客様に訊かれました。「若い頃、これは読んでおかなくてはと購入したのですが、半分も読まずにギブアップしてしまいまして。その後箱の奧に眠らせていたのですが、珍しい本と知り、今回出品させていただきました。価値の分かる方に渡った方がいいのではないかと思いまして。そのわりには、このような値段をつけてしまい、すみません」と正直にお答えしました。どうか、『マヌ法典』があの方(年輩の男性)のお役に立ちますように。

■ 田川建三 そして 吉本隆明

★ 『イエスという男 第二版 増補改訂版』(田川建三 作品社)を迷いながらも購入された20代半ばの男性がこんなことをおっしゃいました。「話題になった吉本隆明の本を読んでみようと思って挑戦したもののわからなくて。本好きの友人に訊いたら、田川建三の『思想の危険について』を読めと言われたんですよ。で、同じ著者だから気になって」と。 吉本批判本を読めば吉本がわかるという発想、面白いなと思いました。好きな著者がいて、その著者が誰にどのように批判されているか確かめたいと思うのが、一般的な順序ではないでしょうか。

★ 『背景の記憶』(吉本隆明 平凡社ライブラリー)を購入していただいた方に、ふと気になってお尋ねしたところ、著者のことはご存じありませんでした。表紙にはこの古本市イベントが開催されている地域ではよく見られる路地が映っています。(荒木経惟撮影) ぱらぱらと中をご覧になっていたので、「谷中―私の散歩道」という文章が購入の決め手になったのかもしれません。あえて、吉本隆明のことはご説明しませんでした。これもお客様と本との〈出逢い〉ではないかと思われたからです。 お買い上げくださったのが年輩の女性だったので、何だか嬉しくてご紹介しました。 (続く)

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