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2008年10月17日 (金)

とみきち屋番頭の「秋も一箱古本市」体験記(3)

一番印象に残っているお客様の話から始めたいと思います。
かわいい二人のお嬢ちゃんを連れて来られた若いお父さんのお話です。

■ 五味康祐  『五味手相教室』、井筒俊彦 『ロシア的人間』

二歳ぐらいの妹さんを抱っこしながら、五味さんの本を手に取られました。とてもお若い方なので、番頭が「五味さんをご存じですか?」とお尋ねしたら、「いいえ、知りません」。そこで、番頭が、五味さんは本来剣豪小説を多く書かれた作家なんですよ、などとご説明しているあいだ、3~4歳ぐらいのお姉ちゃんは、お隣もす文庫さんのお手製缶バッジに目が釘付け。さらに、釘付け状態から、行動に移りました。両手に一つずつ握りしめ、番頭と話しているお父さんに「ねえねえ、これ買って~」と静かに、しかし粘り強くアプローチ。二つ持っているのは、お父さんに抱っこされている妹さんの分も、というお姉ちゃんとしての配慮でしょうね。お父さん、初めは「お母さんが一緒のときに買ってあげる」と諭していましたが、お姉ちゃんは、ぎゅっと握って放しません。結局、お父さんも根負けして、ご自身には『五味手相教室』を、お嬢ちゃんたちには缶バッジ二つを購入されました。

 その間、実は、「ロシアの広場」の棚から『ロシア的人間』を手に取って、ぱらぱらとご覧になっていました。「以前、この人(井筒俊彦)イスラム関係の本を読んだことがあるので、ちょっと気になって・・」と。しかし、缶バッジを見事手に入れ満足したお嬢ちゃんに手を引っ張られて、立ち去られました。

 しばらくして、またお父さん登場。再び『ロシア的人間』に手を伸ばされます。店主が「先ほどはありがとうございました」とご挨拶したら、お嬢ちゃんが迎えに来ました。「おとうさん、あっち~」。どうやらお母さんも合流されたようです。慌てて本を棚に戻し、「僕、最近手相をちょっと始めたんですけど、さっきの本、すごく面白いです。ありがとうございました。またあとで買いに来ます~」と言い残して立ち去られました。

 時が過ぎ、『ロシア的人間』に興味を示される方が多く、お取り置きしようかどうしようかとても迷いました。でも、だんだん終了時刻の5時も近づき、秋の日暮れは早いので薄暗くなってきました。幼いお嬢さん連れですから、もういらっしゃらないなぁと思っていましたら、終わる間際にお父さん一人で登場。なんとなんと、お約束どおり『ロシア的人間』をお買い上げいただきました。本をめぐってこういう出逢いがあったことが、本当に嬉しかったですね~。終了間際に、私ももす文庫さんの缶バッジを一つ買わせていただきました。お嬢ちゃんたちと(ひそかに)お揃いです。

今なお心がぽかぽか温かくなってくるような、楽しくて、嬉しい出逢いでした。
五味康祐に関しては今回、クラシック音楽本が番頭の一押し。しかし、なぜか突然、変わった著書も混ぜてみようという気になりました。不思議なものです。その本が、あの素敵なご家族との出逢いを導いてくれたのですから。

で、『五味康祐 音楽巡礼』、『五味康祐 オーディオ遍歴』(新潮文庫)は、ずっと探し求めていたとおっしゃる方の手に渡っていきました。その方の満面の笑みが忘れられません。ひょっとしたら、同じ時間に同じ本を繙いているかもしれないなーそんなふうに思いを馳せることができるのも嬉しいことです。大好きな本なので。

■ ナボコフ 『ロシア文学講義』、コルタサル 『石蹴り遊び 上・下』

20代後半、茶色のつばの大きな帽子をかぶられたおしゃれな男性が、ナボコフの値段に逡巡されたようですが、3回目のご来店で購入されました。3冊合わせて、当日とみきち屋最高額のお買い上げ。ありがとうございました!

■ 杉山茂丸 『百魔 上・下』、吉田知子 『無明長夜』

どちらも男性が購入。お二人とも最初は箱に戻され、その後2回目に来ていただいた時には、ぱっと手にとり、無言でこちらへ差し出されました。こういうの、ぐっときます。ハイデッガー『ニーチェⅠ・Ⅱ』他まとめて哲学・思想関連を5冊ほど購入された男性も同様に。みなさん、他の会場を廻られてから、戻って来ていただいたようで。ありがたいことです。店主とみきちは、2回以上お見えになられたお客様には、「お帰りなさい」と声をかけておりました。

二人連れの女性のお一人が箱を眺めながら、「やっぱり女性の店主さんと男性の店主さんでは品揃えが随分違うものねえ」と感想を述べられ、去って行かれました(番頭を店主と思われたご様子)。ところが、10分と経たないうちに再度お見えになり、「これいただくわ」と、『小林秀雄初期文芸論集』(岩波文庫)を持ち帰られました。品のいいご年輩の女性でした。

ブログで出品予定を紹介させていただいたうち、引き取り手のなかったのは、村上春樹初版本、『チェーホフの手帖』、ベルリオーズ『ベートーヴェンの交響曲』などです。ベルリオーズは当然の結果とも言えます。 若い女の子が連れのお友達に、「ベートーヴェン好きなんだよね。でもさあ、あれなんなの~~。あんなのが5,000円だって!!」。背後でニヤニヤしておりました。傍から見れば危ないおっさんでしかありません(笑)。

ここから、しばらく本の列記となりますので、興味のない方は飛ばしてください。

以下、引き取っていただいた本の一部です。

  • 深沢七郎 『みちのくの人形たち』
  • 安東次男 『芭蕉百五十句』
  • 沖浦和光 『幻の漂白民・サンカ』
  • 猪木正道 『ロシア革命史』
  • 倉田百三 『絶対の生活』
  • 杉本秀太郎 『花ごよみ』
  • 室生犀星 『詩文集 犀星 軽井沢』
  • 内田樹 『レヴィナスと愛の現象学』
  • 前田英樹 『絵画の二十世紀』
  • 梅津時比古 『《セロ弾きのゴーシュ》の音楽論』
  • 蓮実重彦・武満徹 『シネマの快楽』
  • ジュネ 『葬儀』 

など。この統一の無さ。やはりおもちゃ箱でした。

■ ついでに、もらい手のなかった本の中から少々。

  • 宇野浩二 『芥川龍之介 上・下』
  • 薄田泣菫 『泣菫随筆』
  • 河野与一 『学問の曲がり角』
  • 真壁仁 『詩の中にめざめる日本』
  • クライスト 『ペンテジレーア』

など。

さらに、どんな反応があるか確かめてみたかったのですが、もうこれ以上は運べないと出品を諦めたものに、雑誌『流動』、林尹夫、原口統三、奧浩平、林語堂などの本があります。

実は、近しい人から「売れた以上に買ってきそう」とご心配いただいておりました。確かにその可能性ゼロといえないのが、本好きの困ったところ。今回のイベントでの唯一の心残りは、ゆっくり他のお店を廻る時間が持てなかったことです。結局3冊しか購入できなかった(泣)。
その反動でしょうか、古本市の数日後、私番頭は古本屋さんで、小学館『昭和文学全集』14・27・33・44巻の4冊を2,000円で購入(定価で買ったら16,000円!)。読みたいものが盛りだくさんにつまっているのです。嬉々として帰宅すると、とみきち絶句。 なにせ、笠井潔単行本を上回る大きな本ですから(笑)。「日曜には、○○さん(二十年近く懇意にしていただいている地元の古本屋さん)のところに、段ボール1箱ちょっと持っていくからさあ」となだめたものの、無駄でした。

番頭の拙い文章に長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。体験記(1)(2)を面白く読んだよと何人かの方に言っていただき、調子に乗ってしまいました。突然乱入し、いろいろとお騒がせいたしましたが、本日をもって番頭はおいとまいたしますので、ご安心ください。どうか「とみきち読書日記」を、これからもよろしくお願いいたします。

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