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2008年10月 5日 (日)

『ギリギリデイズ』 『同姓同名小説』 松尾スズキ

『ギリギリデイズ』は、1999年6月から2001年1月までの松尾スズキのHP上に掲載された日記を単行本化したもの。いまは、文春文庫に入っています。『同姓同名小説』は、小説とはいうものの、芸能人をパロディ化したショートショート的な作品集。

松尾スズキの文章の言語感覚、躍動感と、ユーモア(ブラックもあり)は秀逸。嘆き節にもひとひねりあって、もんのすごく楽しめます。日常を垂れ流すことに恥じらいを感じている芸風なのだけども、その辺は完璧に計算しつくされていますね。自分をも含めた配役を考えて、人生のあらゆる場面を芝居にしてしまう人、という印象。

『ギリギリデイズ』の一部をご紹介。「自分はこれほどまでに疲れることができる人間だという、というか、ここまで疲れてもブラックアウトしない人間だということがわかって、おかしくて夜中に起きて笑ってしまう。もーう、精も根も……。堤真一ですら肉離れ寸前の昨今」というような感じの嘆き節で始まったある日の日記では、(もちろん計算しつくした上で)毒を吐く。

俺のネット批判は「松尾さんらしくない」なんつうメールが届く。

あーあ。

がっかりだな。この子。

基本的に俺のファンの子なんだけど、文章がブスなんです。こういう距離感のない言葉遣いがネットで文章を公開する奴特有の「不細工さ」だと思う。俺と会話したいなら「分析」しようとするなよ。「分析」しようとするなら、その分析で金がとれるくらいのクオリティーで書いてきなさいよ、と思う。リスクのない場所での議論に、少なくとも俺には興味もないし。なあ、もうよう。頭のいいふりしたい奴ら、さあ、名前をあかそうぜ。顔出そうぜ。その文で金とろうぜ。有名になろうぜ。でなきゃ、その分はカラオケと一緒でしょ。他人に聞かせるな。うざい。だから、もう、文章ブスは謙虚に生きようよ。ほめてりゃいいよ。ほめは大歓迎よ。でも自己主張するな。

てな感じで、怒りを向けてみたあとに突然反省する。

ごめん、最近攻撃的で。

これよ。

このすぐ反省する姿勢が次のクオリティーを生むのよ。

最初から最後まで、完全に芸です。忘れていないのが、自分を笑うこと。

野田マップに役者として出演して、(からだは、稽古時も本番中もとーーっても大変だったようだけど)、役者として自由に振る舞えて幸せだったと締めくくりながらも、野田マップのカーテンコールは長すぎる。あれは「晴れがましい」気分にさせられて、そこから勘違いの第一歩を踏み出すことになり、道を踏み外していく、と書いている。

だからもう、まったく、申し訳ない、の一言です、ああいう空間ていうのは。客もね、ああまでカーテンコールを求めてはいけません。役者はカーテンコールをほしがって、客もカーテンコールをほしがって、ってもう、両者がっぷりよつのカーテンコール乞食状態。やばいです。おこがましさでがっちりコーティングされている俺でさえ、ちょっと晴れがましくなったもの。みんな平等なんだから、食うためにやってるだけだから、役者だけ晴れがましくなっちゃ、いけませんよ、注意、注意。

こんな松尾スズキは、『同姓同名小説』で、おもいきり著名人をパロっている。その潔さがね、スゴイです。

話の筋は、本当にいかにも劇場向きの荒唐無稽な設定だけれど、出てくる人は、例えば本当にみのもんたを彷彿させる人物だし、うわ、中村江里子は確かにそうだけど、それを言っちゃう(汗)ってことをはっきりと、わかりやすく書いてしまうし、広末涼子の不思議さも、ああ、そんな感じねーと思わせるし。

とはいえ、日記のどこかに、芸能人に知り合いが増えていくとだんだん書くネタがなくなっていく、と書いてあった。それを読んで、さすがの松尾スズキでも知り合いになってしまった芸能人については書けないのだなと、変な感心をしたものだった。

第九話「女優・荻野目」という話には、慶子、洋子の姉妹が出てくる。姉、慶子を妹、洋子が嫉妬し、振り回されつつも、理解し、サポートしているという関係を描くふりをして、慶子の不思議さを描いている。普通、こんなこと書けないなぁと思うのは、劇作家、犬場が慶子に身長一八〇センチの中年男の役を振り、稽古を繰り返していくこの話の最後のシーン。

「そうだ。笑いをわかろうとするな。わかんない。その距離がいい。あんたと中年教頭の距離を無理に縮めなくていい。その意味不明な遠さに人は笑うんだ」

ハイ!

姉に本来の明るさが戻り、稽古は順調に進んだ。

「意味不明な遠さ」、これが女優・荻野目に松尾スズキが冠した形容詞。うーー。

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