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2009年5月30日 (土)

『いそっぷのおはなし』 降矢なな(絵)・木坂涼(再話)

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ご存じ、イソップ物語あるいはイソップ童話の中から9編が編まれた絵本です。

  • きつねと つる
  • うさぎと かめ
  • よくばりな いぬ
  • うしと かえる
  • ひつじかいと おおかみ
  • きこりと おの
  • からすと きつね
  • ありと きりぎりす
  • きたかぜと たいよう

こう列挙してみて初めて気づきましたが、タイトルはすべて「○○と△△」で統一されていますね。これは一つのこだわり、なんでしょうね。← あとから気づきましたが、「よくばりな いぬ」だけ、違っていました。

文章で特徴的なのは、最後の教訓がないこと、です。それに関しては、絵本ナビで編集者、田中尚人氏のコメントが紹介されています。

ここには動物や人間たちが楽しく、時にずるく、時にまぬけに、時に厳しく織りなす絵本の原点があると感じました。また、「うさぎとかめ」では、「あくせくと歩むカメよりも、木陰で昼寝したウサギは、きっと気持ちよかっただろうなぁ」とウサギ の味方をしたくなったり、「ありときりぎりす」でも、夏の間、歌っていたキリギリスには、アーティストの生き様を感じたりもしました。見方を変えると、お話の結末もずいぶん違って見えることが、とても新鮮でした。そこで、読み手や聞き手が、そのつど色々な解釈ができるよう、結末の教訓をあえて入れず、絵を見ながら、お話を聞きながら、自由に会話ができるよう工夫してみました。

なるほど! 降矢ななの絵が、このスタイルを可能にした! と感じました。降矢ななの描く動物の絵ほど、教訓となじみにくいものはない、と思いますから(笑)。

そういう役目を引き受けて、読みやすく、リズムよく、ストーリーはわかるように、でも、説教調にならないように、物語を再編するのは、困難な仕事だったでしょうね。ほとんどが平仮名なのですが、鳴き声の「モ~ッ」と「カア」がカタカナだったり、「チーズ」がカタカナだったりして、特別なこだわりがあるのかな? とちょっと注目しました。「すとん」とか「ぱっち~ん」は平仮名なんですよね。

一冊の絵本として見ると、全く飽きがこなくて、どのページを開いても、何度でも新鮮な喜びが味わえて楽しむことができる、贅沢な作りです。また、物語から自由な絵本という印象がありました。そして、作り手たちが楽しんで作っていることが感じられる、「生きた」絵本だなと思いました。

見開き2ページ×2で一つの物語が完結します。一つの物語につき、途中でページをめくるのは一回だけ、というわけです。導入のページと結末のページだけで話が終わる。話がどこまで凝縮され、それをどこまで大きく展開させられるか。一話一話、そこが考え抜かれたうえで、登場人物の性格や、立場、境遇が、絵に込められています。それでも、編集子が言われるように、読者が自由に思い入れをする余地はたくさんあります。

クレヨンハウスでの原画展を見た友人のぶーやんさんは、キリギリスのスタイリッシュな格好良さを絶賛していました。たとえ冬になって食べ物がなくなって飢え死にしようとも、自分は自分の生き方を貫くんだ、という矜持を感じさせられた、というのです。見開き左の、スクラッチ画法(モノクロ)の芸術的なタッチで描かれたキリギリスと、紅白のマントをまとい(ぼろはあたっていますが)、あくまでも自分のスタイルを貫くカラー頁のキリギリスの対比が、非常に印象的でした。冬のキリギリスの服装がカラーであること、がポイントなんですね~。

構図的に新鮮だったのは、「よくばりな いぬ」。幼い頃に読んだイソップ物語の挿絵は、「犬」と同じ目線の絵だったと思います。川の上から見下ろしたときに水面に映る、肉をくわえた自分の姿。それがどうでしょう。最初のページは、左右のページにわたって、毒々しい赤い肉をくわえ、童話の主人公には全く似合わない風体の黒いブルドッグ。イソップ童話のよくばり犬としてのこの絵柄は、非常に挑戦的です(笑)。

そして、次のページを開くと、トーンは一転、淡い水彩画のタッチ。しかも、構図がびっくりです。川にかかる橋を遠くから見通すような位置から描かれていて、犬は完全に対象化されています。さらに、風景の描き方も……。私の中にあるイメージには、犬がさしかかる橋の上に人影はなく、ましてや釣りをしている人などいません。だいたい、人間の世界の中の犬、という設定ではなく、あくまでも動物世界の話、でした。

しかし、本書の橋の上には、ものすごく多くの人々(人間ですよ、人間)が行き交っており、しかも、主人公であるはずの犬に注目している人など全くいません。が、肉が落ちた瞬間、釣り人も、橋を行き交う人々も、水面にうかんでいるアヒルか何かも、んっ? といった調子で注意を向けるのでした。キツネとはずいぶん違う扱いじゃない? 犬を相対化するこの展開は、実にユニークだなぁと感じました。

「きこりと おの」は、私が読んだものは「金のおの 銀のおの」というタイトルでしたね。神様の顔と髪型と色が実にユニーク。へーー、沼の神様はこういう神様だったのかーー。初めて知りました(笑)。降矢ななのオリジナルな世界です。

「きこりと おの」の正直者のきこりの絵(左ページ)は、とても素敵です。この絵と、右側の神様の絵を並べていい、ということにしたグランまま社の自由な精神、すばらしいですね~。

「うしと かえる」の、結末の絵は、降矢ななのご主人、ペテル・ウルナール氏が絵を描いている『びっくりぎょうてん』を思い出させる構図でした。

私が好きな登場人物は、「きたかぜと たいよう」の「きたかぜ」です。なんですか、この髪型は、なんですか、この顔は(笑)。北風って、こういう顔で、こういう装束で、ぴーぷーと冷たい風を吹かせてよこすわけですか。そうかぁ。こいつが「きたかぜ」かぁ。うーーん、やはり仲良くなれそうもないな~。「話せばわかる」と思えない、異文化の人という感じがするぞ。私が冬を苦手とするのは、背後にこやつがいるせいだったのか。

なーんて感じで、絵を一つひとつ見ていくと、あっという間に時間が過ぎます。

「きたかぜと たいよう」の2ページ目を開くと、「太陽の圧勝」結果が展開するわけですが、そのページには、いろいろな遊びが入っています。作家のちょっとしたサービスですね。

表紙と、最初の「きつねと つる」に登場し、最後のページも飾るきつねが、この絵本全体のナビゲーターの役目を果たしているようです。感想を伝えるとしたら、このきつねあてに送るのがいいでしょうね。

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