« 2013年10月 | トップページ | 2014年5月 »

2013年12月

2013年12月12日 (木)

『アンパンマンの遺書』 やなせたかし

高校生の頃だったか、『詩とメルヘン』という雑誌を買って読んでいた。きっかけは兄からのプレゼント。なぜ兄がこの雑誌をくれたのか、理由は覚えていない。私が詩を書いていたわけでもなく、兄がそういう趣味を持っていたわけでもなく。

見たことのない雑誌だった。サイズは大きく、紙は厚くつやつや。重たくて、でも製本は単純で、真ん中にホチキスが見えていたような記憶がある。

やなせたかしの名前は知っていた。「てのひらを太陽に」の作詞家であることは後から知った。さまざまなジャンルの詩が載っていた。印象的だったのは、絵がものすごく贅沢だったこと。そして、著名な詩人の詩も、無名な人の詩も同等に、立派な絵をつけてもらって、見開きで掲載されていた。時々メルヘンもあった。

東君平、葉祥明、宇野亜喜良、司修、味戸ケイコ、馬場のぼる、長新太……。毎号毎号、ページを開くのが楽しみだった。どんな詩にどんな絵が配されているのか。

やなせたかしは、文章も書き、絵も画き、小さなカットも画き、あっちにこっちに登場していた。しかし、雑誌の上で飄々と、軽々と、立ち回っているように見えた。

心に残るのは、「星屑ひろい」という言葉。世の中の無名な星くずのような人たちの詩を、今日も僕は拾い集める、といったニュアンスで、市井の人の詩を掲載し続けた。ゆきやなぎれいさんというペンネームの人の詩はすべてひらがなだった。何度も掲載されたように記憶している。後に知ったのだが、この方は盲目なので、点字で詩を投稿していたのだった。ゆきやなぎれいさんの詩には、特別な絵がいつも選ばれていたように思う。

もう一つが、四コマ漫画。本書を読むと、やなせたかしは四コマ漫画に格別の思いがあったようだ。帽子をかぶったシルエットのみの細身の男性のパントマイム。台詞は無し。山高帽をかぶっていて顔が見えないミスター・ボオ。そうか、帽子と某氏なのか。ミスター・ボオには、無名の下積みで、何者にもなっていないやなせたかしのつらさが込められていたのか。どこかシュールな乾いた感じがあって、叙情的で甘いカラーの絵と不思議なコントラストを奏でていた。

続きを読む "『アンパンマンの遺書』 やなせたかし"

| | コメント (1) | トラックバック (0)

« 2013年10月 | トップページ | 2014年5月 »