や行:吉増剛造

2012年6月11日 (月)

「本の島」をめぐる対話vol.3 堀江敏幸vs吉増剛造(4)@青山ブックセンター本店(2012.5.26)

◆卓球と対話

『おぱらばん』の中の表題作「おぱらばん」では、卓球が出てくるね~、と吉増さん。堀江さんが中学、高校と卓球をやっていたことは私も知っていたが、吉増さんも「僕もそこそこできるんだよ」と。

その後、有名な日本選手の名前が出たり、カットマンなのか、ドライブマンなのか、といった、比喩ではなく卓球そのものの話が出るところが面白いのです。(仕込みじゃないんですよね~)

吉増さん 「僕はシェイクハンドでラケットを持つので、バックハンドの球を打つときは裏側で打つことになるでしょう。そのたびにどうしてこのフォームで球がうまく打てるのかと思って、ときめくんですよ」

堀江さん (やや間をおいて)「ときめきますね!!」

こういう会話をその場で聞ける喜び。吉増さんの「ときめき」という表現が、堀江さんのアンテナにしっかりキャッチされた様子でした。

堀江さん 「僕は試合でのラリーが好きなんです。試合中にいつも、このラリーが終わることなく永遠に続いたらしあわせだと思っていました。仲間からは、勝とうとしないと非難されて、まったく理解されませんでしたが」

「対話は卓球と同じです。相手がかけてきたスピンと同じ回転で打ち返したらラリーになりません。それと同じで、対話も相手の打ってきた球を見極めて、こちらはまた違うスピンやドライブをかけて打ち返す。そうすることによって、ときめきのあるラリーが続きます。」

堀江作品は、始まりも終わりもわからないまま、読者は作品中の人物とともに、あるプロセスを体験するほかない、というようなものが多い。風の吹くまま、足の向くまま。何かの偶然で出会った言葉、物、場所、名前に有機的な反応を起こした主人公が、次の行動を起こしていく。同じようにまた別のきっかけが次の出来事につながっていく。

決まり事はない。同じ回転で球を打ち返さないのだから、毎回違う球を打ち合うのだから。だから成り立つのがラリーなのである。

しかも、堀江さんの好きなのは練習中のラリーではなく、一打一打にギリギリの判断を迫られる試合中のラリーである。一瞬で相手の動作、音、視線、球の速さやコースを見極めて、次の自分の行動を決める。頭で考えた瞬間にからだが動いていなければいけない。その繰り返し。どこかに向かおうとするのではなく、あくまでもその瞬間の対応の連続。

ラリーの果てにたどり着く場所がどこなのか。誰もわからない。確かなのは、球を受け、打つ一瞬に感じるときめきだけなのかもしれない。ラリーが終わればジ・エンド。試合は終わるのだ。

吉増さんとの対話も一つのラリー。「相性がいいと思います」と堀江さん。プレイヤーが楽しんでいるラリーは見る(聞く)者の感動と共感を誘う。

同じスピンをかけて打ち返したら対話が成り立たないと言って、作品の中で、対話の中でときめきを感じてラリーを続ける堀江さんが好きだ。

■□■

次回は、吉増さんと吉本隆明について書きたいと思います。が、十分に理解できていないかもしれないので、「うまく整理できれば」という条件付きといたします。

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2012年6月 4日 (月)

「本の島」をめぐる対話vol.3 堀江敏幸vs吉増剛造(3)@青山ブックセンター本店(2012.5.26)

◆『おぱらばん』解説にまつわる対話◆

『ユリイカ』に連載された『おぱらばん』が青土社から単行本として出され(津田氏の本来の念願)、さらに新潮文庫に入ることになったときに、吉増剛造氏が解説を書かれています。その当のお2人が目の前で、「解説」について、そして「解説」が解説している『おぱらばん』について語ってくださるのですから、ファンとしてこんなに幸せなことはありません。

早く家に帰って「解説」および「作品」を読み返したいという思いと、一分でも長くこの対談を聞いていたいという思いとに引き裂かれながらお二人の話を聞きながら、自分でもわかるほど私はにこにこ、にやにやしているのでした。

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2012年6月 3日 (日)

「本の島」をめぐる対話vol.3 堀江敏幸vs吉増剛造(2)@青山ブックセンター本店(2012.5.26)

(吉増氏の解説が読めるのは文庫です)

「本の島」をめぐる対話vol.3の続き、第2話です。

◆『おぱらばん』執筆の経緯◆

   ☆うわごと電話

「本の島」の着想者である津田新吾氏と堀江敏幸さんは、堀江さんが第1作を世に出した後、わりあいにすぐに出会うことになります。第1作というのはwikipediaによれば、「1994年より、フランス留学経験をエッセイ風に綴った『郊外へ』を白水社の雑誌「ふらんす」に連載。1995年に単行本化され、小説家デビューを果たす」とありますから、1995~96年頃でしょうか。当時、津田氏は青土社の編集者ですが、堀江さんとは面識も何もありませんでした。

ある日、堀江さんに一本の電話がかかってきます。電話の主は小さな声で名乗りもせずに、「本読みました。すばらしいです」と話し始めます。堀江さんはてっきりいたずら電話だと思うわけですが、ガチャンと切ることもせずに聞いていると、相手はうわごとのように作品についてあれこれと感想を述べるのだそうです。

15分ほど一方的に話したあと、「ついては、第1作と同じような感じで書き下ろしを書きませんか?」と言うんですね。堀江さんは、「いったいあなたは誰ですか?」と尋ねます。電話の主も相当変わっていますが、いたずら電話と思いつつ、途中で名前を尋ねもせず、切りもせずに聞いている堀江さんも相当変わっていますね~。「あ、失礼しました。私、青土社の津田新吾と申します」。

こうした「うわごと電話」から、津田氏と堀江さんの関係が始まりました。

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2012年5月30日 (水)

「本の島」をめぐる対話vol.3 堀江敏幸vs吉増剛造(1)@青山ブックセンター本店(2012.5.26)

2012年5月26日(土) 青山ブックセンター本店にて、「本の島」をめぐる対話vol.3 堀江敏幸vs吉増剛造 が開催された。それはそれは楽しく豊かなトークで、会場全体がしあわせに包まれていた。全貌を記録するのはとてもとても不可能なれど、余りにも素敵な時間であったので、その場で取ったメモを頼りに、少しずつそのときの記録を書いてみたい。しかし、会場が暗く、手元が全く見えないので、自分の書いている文字が見えないなか、のたうつ暗号のような文字は解読不能なものも多い。どこまでできるだろうか。

何回かに分けて書いていく予定。今回は、お二人の印象と、お二人の関係について。

◆堀江敏幸さん◆

いでたちは、雑誌、テレビ等で拝見するいつもの感じ。ご本人の印象同様、威圧感というものを一切感じさせない、ひょうひょうとした、風の通り抜けるような雰囲気。色も、においも、体温も、体格も、過剰なものが一つもない。脂ぎったところもない。想像していたよりも、上背がおありで、また、細身でした。

印象的だったのはヘアスタイル。前髪をめがねの縁にかかるほどたらしていて、ちょうど中学生になりたての少年が少しずつ髪を伸ばし始めたときのような感じ。話をするときには、話し手の顔をしっかりと見ているにもかかわらず、人と目を合わせるとはにかんで目をそらしているのではないか、という印象を与えるような雰囲気は、あの前髪とめがねのせいだろうか。

◆吉増剛造さん◆

開場になってまもなく壇上に来られて、しつらえられた小さな舞台のご自身の席に腰掛けて、用意された小机に、トークで言及しようということなのだろう、何冊もの書籍をbookendを使って並べ、時折その順番を入れ替えたりしながらも、開場をねめ回し、知った顔があると、片手を上げたり、人なつこそうな笑顔を見せて、既に会場と一体化せんとするばかり。いでたちは、音楽家とも見えるようなスタイリッシュな感じ。黒の上下に(スーツではない)、ストールを巻いて、白髪交じりの天然パーマのヘアスタイルと、しわの刻まれた日本人離れした風貌とが、国籍、性別、年齢を越えた世界人のイメージ。男性ではあるけれど、魔女会の参加資格も十分にありそうな感じ。70代でこの色気はすごい。

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