『めぐらし屋』 堀江敏幸
堀江敏幸は、リアリティと幻想が違和感なく同居している作品を書く才能にあふれていると思う。何の意味があるのかと思えるような、ごくごく日常的なディテールへのこだわりと、話全体を覆うリアリティの欠如とのバランスこそが、彼の作品の最大の特徴だろうと思う。それだからこそ、現実に疲れた中年の我々は(笑)、彼の作品を読んで、オアシスを見つけたかのような安堵感にしばし浸れるのだろう。
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堀江敏幸は、リアリティと幻想が違和感なく同居している作品を書く才能にあふれていると思う。何の意味があるのかと思えるような、ごくごく日常的なディテールへのこだわりと、話全体を覆うリアリティの欠如とのバランスこそが、彼の作品の最大の特徴だろうと思う。それだからこそ、現実に疲れた中年の我々は(笑)、彼の作品を読んで、オアシスを見つけたかのような安堵感にしばし浸れるのだろう。
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まことに贅沢な本です。35文字×29行=1015文字。400字詰め原稿用紙3枚にも満たないエッセイの集積。テーマは「多情物心」。あとがきから引用いたしましょう。
こんながらくたばかり集めていったいなんの役に立つのか? 社会的には、もちろんなんの役にも立ちはしない。手に入れた「もの」をなにかに用立てようなどと考えた時点で、真の「物心」を失ったも同然だからである。
(中略)
実際に使っている「もの」も、見ているだけの「もの」も、特定の生活空間に呼び込まれてはじめて息を吹き返す。ずっとそこに置かれたままで力を発揮する場合あれば、あちこち移動し、隣りあうなにかとの関係のなかで、それまでの自分にはないあたらしい文脈を発見していく場合もある。彼らのしずかな変幻を見守ることも、「物心」のおおきなはたらきのひとつなのだ。つまり、「仏心」ならぬ「物心」とは、「もの」を買ったり愛でたりすることと、かならずしも一致しないのである。どんなにありふれた量産品でも、それが最新であった時代の役目を終え、廃棄されるかわりに生き延びようとするとき、他のだれかのもとではなくこの自分のところにやってくることになったいくつもの偶然の重なりと、そこに絡んでいた人と人とのつながりをこそ、「物心」あらんと欲する私たちは愛するわけで、もしかすると、「物」じたいより、背後にあるさまざまな「物」を語ることのほうを、物語のほうを大切にしているのかもしれないのである。
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堀江敏幸の小説は、エッセイのような、ノンフィクションのような、なんとも言いようのない独自の世界。そしてエッセイもまた、小説のような、フィクションのような、つかみどころのないものが多い。
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大好きなたぐいの小説の一つ。『いつか王子駅で』と同じテイストながら、同じところにとどまってはいるわけではなかった。ためらい、逡巡、迷いが同様に描かれているが、ここでの「彼」は一歩先に行っている。人生の荒波にしっかりと分け入っている。ためらう時間を、意識的につくり出し、そのあとの人生を見つめようとしている。どちらかといえば、これから自分の進むべき道、第一歩を見つけようとする逡巡であった『王子駅』とは、そこが違っているだろう。そして、気になるのは、何度か言及される「妹の死」である。結局「命の芯」という言葉が象徴的に語られただけで、「彼」の心の中でどのようなおさまりをつけたのか、わからないままになっている。
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女性との偶然の出会いをテーマにした、連作短編集。この作者の作品にしては珍しく、官能の匂いもほのかに感じられる。私の一番のお気に入りは「アメリカの晩餐」、そして次は「さくらんぼのある家」。
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しみじみと余韻が残る、是非とも一読をお勧めしたい短編集。
雪沼は、山あいの架空の町。そこにひっそりと生きる市井の人々の人生が丁寧に描かれている。著者のいつもの視線は健在だ。文明を拒むがごとく、自分のこだわりの物、なじみの物に囲まれて、ひっそりと生きる人。それぞれの人の心にしまわれた大事な時間と別れ。生きている以上、すべての人に、他人には伺いしれない葛藤や、心が大きく動いた瞬間や、こだわりがある。それが人生なのであり、それぞれの人間はそれぞれのこだわりの中で、それぞれの生き方で、それぞれの思いを抱えて生きてゆくもの。読後、そんな当たり前のことをしみじみと改めて感じる、味わいと余韻のある珠玉の短編集だった。
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